心地いい人間関係のつくりかた【第2回 「親子関係の常識」のウソ】

皆様、こんにちは。オフィスTヒーリングセンターの外川(とのかわ)です。

皆さんが今、ご両親に対して抱いているのはどんな感情でしょうか?

「育ててくれて感謝はしているけれど…」「そろそろ親孝行しとかなきゃ…」。

実は、複雑な思いがあるというのが正直なところではないでしょうか?

本当に、「親の愛は山よりも高く。海よりも深い」のでしょうか?

今回は、3歳の女の子の話から考えてみましょう。

自分らしい人生を創造するために

心地いい人間関係のつくりかた

第2回 「親子関係の常識」のウソ

子供は大人が思う以上に、物事を観察し、気持ちを感じ取っている

人は3才から「いい子」を演じる

3歳のM子ちゃんは4人家族。お父さん、お母さんに昨年生まれたばかりのRくんと、都内のアパートに住んでいます。お母さんのS子さんはフルタイムで働いているため、М子ちゃんは、0歳の時から保育園に通っています。

S子さんは、念願のマイホームの完成が間近で大忙し。3月末にはお引越し、4月からはМ子ちゃんと弟は新居に近い新しい保育園に通い始め、それと同時にS子さんは育児休暇を終えて、職場復帰するという予定になっています。

「新しいおうち楽しみだな。M子のお部屋もあるんだよね。新しい保育園でお友達できるかな」M子ちゃんもワクワクです。

S子さんは引っ越しの準備、保育園や復職の手続きで忙しいところに、さらに建築業者とのトラブルが起きてしまいました。

「家事に育児に引っ越しに、私ばかりが大変」。S子さんは夫に、自分の大変さを受け止めてもらえていないという不満がありました。イライラは募り、不安で眠れない夜が続きます。

でも、毎晩遅く帰ってきては心身ともにクタクタになっている夫の姿を見て、S子さんも言葉を飲み込んでしまうという日々が続いていました。

子どもが親の一番の理解者?

そんな時、S子さんは保育園で意外なことを聞かされます。

それは、引っ越しを楽しみにしていたはずのM子ちゃんが、保育園では別の保育園に行きたくないと泣き、これまでのお友達と一緒に進級できないことを悲しんでいるというのです。家ではそんな素振りさえ見せていなかったのに・・・。

M子ちゃんはおそらく、お母さんのただならぬ様子に気がついていたのでしょう。

そうしたら自分の本当の気持ちを言えるわけがありません。そんなことを言ったら、ただでさえ大変なのにさらにお母さんを困らせてしまう。だからお母さんの前では、引っ越しを楽しみにする「いい子」を演じていたのです。

「M子ちゃんは、お母さん思いの子ね」と思われるかもしれません。でも、彼女に限らず、これが子どもと親の関係の真実だと思います。子どもほど親を分かっている存在はありません。なぜなら、親を理解していないと子どもは生きていけないからです。

両親の前では明るく振舞っている子供も親に見せない悩みや不安があるかもしれません。

子どもは命を懸けて親の表情を読み取る

「親が子どものことを一番理解している」とは、常識のように言われていることです。

しかし、むしろ逆で、子どもの方が親のことを一生懸命に考え理解しているのではないかと思います。「親の心、子知らず」などもよく使われる言い方ですが、実際は「子の心親知らず」なんですね。

なぜなら、子どもは親がいなければ、生活していくことはできません。子どもの頃を思い出してみてください。

親がいなくなって戻ってこないと想像しただけで、それは「死」を意味するほどの恐怖だったのではないでしょうか。子どもにとっては、両親に自分の生存がかかっているのです。

それゆえ、生きていく手段として、生存をかけて親を理解しようとするのです。

どんな子どもでも親に認められたい、愛されたいと思います。そして、どんな親であれ、子どもは親に好かれ、親を喜ばせようと必死になります。

親が何を考え、何を感じているか全精力を傾けて理解しようとするのです。

子どもが子どもらしく育つためには

M子ちゃんは、保育園では自分を素直に表現できていたようです。幸い保育園と家庭の連携があったため、S子さんは、M子ちゃんの本当の気持ちを知り、その感情を受け止めてあげることが出来ました。

M子ちゃんにとって必要なのは、お引越しをしないことではなく、今までのお友達とさよならする哀しみと新しい保育園に行く不安を理解し、共感してもらうことでした。

現在、M子ちゃんは、新しいおうちに移り、保育園にも徐々に慣れていっているようです。

しかし、もしM子ちゃんの本当の気持ちが、お母さんに受け止められないままだったとしたら…。

M子ちゃんは、自分を理解してもらえない孤独と寂しさを抱えたまま、自分の気持ちを抑えがちになり、人間関係をうまく構築できずに育ったかもしれません。

本来、子どもが健全に育っていくためには、子どもが自己を十分に発達させることが出来るような安全な基地が必要です。

見たことや聞いたこと、感じたことを自由に口にし、それを受け止めてもらうことによって子どもの心は発達していきます。

しかしふっと思ったことや、不思議に思ったことを率直に大人に尋ねることが出来ないような緊迫した空気が流れていたら、どうでしょうか。

あなたの家族は健全に機能していますか?

ニュースになるような児童虐待がある家庭はもっとも深刻ですが、これ以外にも子どもの心が傷つけられるような要因は、家庭に数多く存在します。 親は「こんなことで?」と思われるかもしれませんが、

*例えば、親が子どもの行動を批判したり、からかったり
     母親が父親の愚痴を言う
     夫婦喧嘩が絶えない
     祖父母が、母親の悪口を言うなど、

子どもたちは、それを聞いて大変に悲しく思い、傷ついています。

また、直接子どもが殴られていなくても、それを見るだけでも、自分が殴られたのと同じく傷つきますし、それを止められない自分をふがいなく思い、自分はダメな子だと、深く傷つきます。

その他にも、子どもが健全に育つための機能が失われてしまっている「機能不全家族」の実態を見てみましょう。

■子どもが健全に育たない「機能不全家族」とは?

○怒りの爆発が起きる家庭

○身体的・精神的・言語的・性的虐待のある家庭

○アルコール、摂食障害、ギャンブル、ワーカホリックなどの依存症がある家庭

○親の自己愛、自己満足が優先される家庭

○親が過剰な期待を抱いていたり、世間体ばかり気にする家庭

○秘密があまりにも多い家庭

○子供が親の愚痴の聞き役になったり、面倒を見たりする親子逆転家族

○子供を甘やかし溺愛する家族

○他人との比較をする家庭

○家庭内の会話が淡々と事務的で、感情表現のない家庭

○仕事が忙しい、身体が弱いなど極度に親が不在になることによって触れ合いがない冷たい家庭

〇最近は、親が発達障害でコミュニケーションがうまく取れないなどのお悩みも多くなっています。

なぜ敢えてこの「機能不全家族」に注目するかというと、その環境の中で身に着けた「不適切な生き方」が、親から子へ、子から孫へと世代を超えて連鎖するからです。

 今癒しに取り組むクライアントの皆さんは、そのような生きづらさの連鎖を自分の代で断ち切るために、今、自分の家族や成育歴をきちんと省みて、必要ならばその生き方を修正し、もっと楽で快適な人生を、健全な家庭を手に入れる取り組みをされています。

もう一つの例:

ここでは3才のM子ちゃんを例にお話ししましたが、私には今も心に残っているある光景があります。

それは、ある朝の通勤電車でのことでした。

朝の電車は混んでいて、そこにM子ちゃんよりも小さい2歳ぐらいの女の子を連れたお母さんがやってきました。混んだ電車内は皆不快そうで、子ども連れのお母さんにはやさしくない場所ですね。

お母さんはめんどくさそうに「はあ~」とため息をつきながら子どもを抱き上げて、やっと乗車します。お母さんは不機嫌そうにイライラしていました。

するとまだ小さな女の子は、お母さんの首元のネックレスをそっと触りながら言ったのです。「ママのアクセサリー、綺麗ね~」と…。

母親の不機嫌な態度や顔つきに、すべてを読み取ったその子は、お母さんの機嫌を取ったのです。

自分の存在も迷惑と感じたかもしれませんね。イライラする母親がさらに怒り出さないように、この子はいつもこうしてお母さんの顔色を見て、上手にお母さんの機嫌を取っているのでしょうか。

この子を「いい子ね~」「おりこうさんね~」と褒めてはいけない、この子は今、自分の生存をかけて、こんなに小さいのにお母さんをなだめているのです。親子逆転です。

このようにして、その子の生き方の癖は作られていくのです。人生の方向性も決まってしまうのです。

ではどうすれば、健全な家庭が作れるの?

次回は、健全な家族について考えてみましょう。


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